原作未読で予告に惹かれて映画館へ。
ホラーサスペンスミステリー好きなのでとても楽しみにしていました。
感想考察はあくまで個人的なものです。
所々ネタバレがあるのでご了承ください。先にご鑑賞することをおすすめします。
死刑にいたる病(映画) 感想や考察
どこか古い映画を彷彿とさせる映像から始まる本編ですが、数分後には戦慄のシーンが展開していきます。
冒頭が強烈なのでグロ耐性の全くない方は厳しいかも。
その後も所々に被害者の映像が出てくるので、ご注意ください。
作品全編を通して終始陰鬱な雰囲気が漂います。
連続殺人鬼から依頼を受けた大学生が真相を突き止める…のが物語のメインではありません。
私も最初はそう思っていたのですが、いい意味で期待を裏切られました。
真相を突き止めていく過程ももちろん面白かったです。
素人捜査なりに真実に近づいていく過程は見ていて引き込まれますし、主人公・雅也の抱えている負の部分が徐々にさらけ出される様子がしっかり描かれています。
爪
今作のキーポイントアイテム。
榛村が執着しているほかにも、雅也が灯里の爪を気にしたりしています。
また、冒頭の一見美しいシーンが、実はあんなことになっていると知った時はうまいなぁと感心した!
だって普通に花びらをまいてるふうにしかみえないもの。
榛村が爪に執着する理由は、彼の言葉から推察してみます(本編からはよく分からなかったので)
最後の面会の時、雅也は榛村に「お母さんの爪はきれいでしたか?」と尋ねます。
榛村は「若いときはね」と答えました。
榛村は母親から虐待を受けていたのだと思います。
そんな母の爪はきれいだった…母から愛情を貰えなかった榛村は爪を集めることで、足りないものを埋めていたのかも?
もしくは愛情不足の裏返しでこういう行為に走ってしまうのか?
とはいえ、生まれつきのサイコパスなのか、虐待のせいでこうなってしまったのか分からないので予想の域を出ませんが。
面会室
面会室のシーンは地味ながらも、榛村と雅也の緊迫する会話劇が展開されていきます。
アクリル板に反射する榛村の表情やしぐさで、雅也の心の隙間に入っていくことが分かる描写がよかったです。
物語が進んでいくと、誰の話が本当でどれが嘘なのか迷うシーンが出てきます。
雅也も混乱していますが、鑑賞しているこちらも混乱してきます。
それがまた楽しいんですよ(笑)
でも榛村は割と正しいことを言っていた気もする。
常人には理解できないこだわりがあるから、余計嘘にみえたりするのかもですね。
人たらしの榛村
死刑判決を受けた犯罪者(榛村)が非常に魅力的に描かれており、出会った人はみんな彼を好きになる。
すべては緻密な計算の上で行っている榛村ですが、天然の人たらし成分も持ち合わせていると思います。
いわゆる天才なんだろうなと思いました。
最初は彼の行動に苛立つ刑務官が、時の経過とともに気を許し娘の話をするようになったのが怖かった。
農家のおじさんも、殺人鬼と知りながらも榛村をかくまってやりたいという感情を持ってるし。
そりゃ高校生なんてすぐに信用してしまうよなぁと思いながら見ていました。
「全くの他人」から「信頼できるおじさん」に格上げされる過程は、実際にありえそうなリアルさで、ちょっと興味深い部分でした。
阿部さんの、いい人成分と悪人成分の割合を、シーンによって変更しながら使い分ける演技がとてもよかったです。
いい人そうなのに恐ろしいことを平気でするあたりや、巧みな話術に引き込まれました。
こういう役は阿部さんの真骨頂だと思います。
榛村が雅也に捜査を依頼した理由
雅也は榛村の「対象者」だったからでしょう。
榛村は、ある年齢(17.18歳だったかな)の真面目な男女のみを対象に、信頼関係を気付いたのちに拷問、殺害を行います。
これが彼の「ルール」です。
しかしこれに当てはまらない被害者が一人だけいました。
根津という26歳の女性です。
この女性を殺した犯人は別にいる。
榛村の告白を受けた雅也は、捜査に乗り出すのですが…
雅也の人物像
雅也は中学時代、父親に暴力を振るわれていました。
母親の襟子は父親の言いなりで、彼に優しく接してくれたのが榛村でした。
雅也が捜査を開始したのは、唯一安心できる場所を提供してくれた榛村を良く思っていたため。
最初はこわごわでしたが、すぐに事件にのめりこみ、資料を盗撮したり、勝手に名刺を作り探偵ごっこをはじめます(犯罪ですね)
雅也は大学生になっても父親とうまくいかず、Fランク大学に通い、友達もいなくもっさりとした印象で、いつも鬱屈を抱えていました。
そんな雅也の心に付け入ったのが榛村でした。
さらに、雅也の母である襟子と仲が良かったことを知り、自分は榛村の子供ではないかと悩みます。
※もちろん、榛村の作戦。
榛村の影響を受け、粗暴なふるまいをする雅也でしたが、金山に真相を聞くことで榛村の呪縛から解き放たれます。
雅也役の岡田くんは初めて拝見しましたが、陰キャで生臭い感じの大学生役がいい感じに合っています。
雅也は殺人こそ犯さないものの、決していい人ではないですよね。
そんなもやもやした青年像をうまく表現されていました。
金山の罪とは
金山が幼い頃に出会った榛村。彼は金山兄弟をコントロールし「痛い遊び」をさせていました。
それが原因で「自分で選ぶこと」がトラウマに。
大人になった金山に再会した榛村は、次のターゲットを決めてくれと金山に頼みます(ほぼ強要)
榛村におびえていた金山は、通りがかった女性(根津=榛村が冤罪だと主張する被害者)をとっさに指さしてしまいます。
※実は根津も榛村のターゲットだった。潔癖症で行動パターンが決まっており、榛村はそれを把握していました。
榛村がイレギュラーに根津を手にかけたのは、金山に罪悪感を抱かせるためでしょう。
ただそれだけのために根津を殺害したと思われます。
しかも潔癖症の根津を泥まみれにするという嫌らしさ…全方位に向けて無駄のない動きですね(悪い意味でほめている)
襟子と榛村
若き日の雅也の母・襟子と榛村は、ボランティア活動を通じて仲良くなった(と思う)
襟子もまた虐待の過去があり、それが榛村の興味を引いた(と思う)
襟子は不倫の末に子供を死産しており、榛村は彼女に協力して遺体を焼却しました。
彼女も金村と同じく「選べない人」で、榛村に頼っていたのかなと思います。
なお、榛村がこのころ殺害を行っていたかは謎。
24人の連続殺人は、パン屋を経営し始めたのちに、始めたことだと思います。
なぜなら、榛村の殺人は生活の一部としてパターン化していたからです。
あと、襟子はなぜ榛村の犠牲者にならなかったのか。
年齢や不倫をする(真面目ではない)人間には興味がないため、普通に接していたのかもしれません。
なお、雅也が襟子の息子だったと知っていて近づいたのか、偶然なのかは謎のままです。
灯里に対する違和感
登場時からすでに違和感を感じました。
陰キャだった子がいきなり陽キャの仲間になってて、しかもやたらと雅也をかまう。
自分の服で雅也の傷を拭ったり、傷口をなめるシーンはもう普通じゃない感がすごい。
灯里は中学の頃ぼっちだったけど雅也は普通に接してくれた過去があるので、彼のことが好きだったと思います。
もちろん榛村は灯里にも手紙を送っており、雅也の懐柔は早くから始まっていたかもですね。
さようなら
ちょっとうろ覚えなのですが、面会室で榛村が雅也に行った最後の言葉です。間違ってたらすいません。
榛村のゲーム(犯人捜し)をクリアした雅也に対してもう用はないから、死刑になるだろうからもう会わないということかな、とかいろいろ考えました。
「雅也に興味がなくなった」と考えると自分の中ではしっくり来るように思います。
榛村の「対象年齢」を過ぎても彼の興味を引いていた雅也が、本当に「対象外」になった瞬間なのかなと。
(ゲームに正答=榛村の思い通りにならなかった、ということもあると思います)
ラストシーン
視聴者に想像させるラストです。
雅也は榛村の懐柔から抜け出せたけれど、灯里は榛村に操られているようでしたね。
榛村の用意周到さたるや…どれだけの人に手紙を出したんだろう。
記憶力もさることながら、塀の中にいてもまだ「対象者」を手玉に取って楽しみたいという執念が垣間見える不気味なラストでした。
ラストシーンのその後をちょっと考えてみました。
- 灯里とともに再び榛村に懐柔される
どうでしょう?
雅也は一度は呪縛から目を覚ましているわけですが、でも好きな相手からだと違うかも? - 灯里に殺される
バッドエンドです。
ただ、榛村は、自分の操り人形たちが殺人を始めることをよしとするのか?
この辺が分かりませんね。 - 灯里を殺す
サラリーマンを殺せなかった時点でこれはないかなと思いますが。 - 灯里から逃げる
あの怯え方から見て、これもありかなと。
しかし物語の余韻としては味気ないなと思います。 - サラリーマン暴行の罪で逮捕される
普通に考えられるけれど、これも面白くないですね。
そのほか
雅也の捜査状況に合わせて、過去と現在を行ったり来たりするので、細切れシーンが多く、きれいに読み取れないところがありました。
あと結構長い(2時間10~20分?)ので、見落とした部分や忘れている部分があるかも。
弁護士がよく分からないキャラだった。
雅也をバイト扱いにしてまで資料を見せたので、榛村に懐柔されているかなと思っていたけれど、雅也の違法捜査ぶりに怒っていたし。
まぁそれは責任問題が自分にあるからかもしれませんが。
そうそう、作家の岩井志麻子さん出演されてました。話し方ですぐ分かった。
根津の遺体発見現場の地主だったと思います。
白石監督
少し前に「虎狼の血」の2作を視聴したところでした。(凶悪は視聴済み)
「虎狼の血」は映画自体にすごいパワーを感じ、俳優さんも(特に鈴木さん)とてもいい演技をしていました。
何回も見たいのですが、元気な時でないと見られない、そんな作品です。
「死刑にいたる病」は派手さはないけれど、じわじわと浸透していく悪意に気がついたら飲み込まれている。
自然に榛村とリンクしてしまっている、そんな怖さを感じました。
謎が解けていく、真相が見える系の話は大好きなので、とても面白かったです。
考察もいろいろできて楽しかった。
白石監督の次回作にも期待です。